昭和の終わりの頃、俊彦は社会人になって3年目、最初の赴任地仙台から千葉県の柏支店に転勤してきてから1年が経過していた。会社まで電車で10分の駅前にアパートを借りての独身生活。当時はコンビニも今のように充実しておらず、仕事で遅くなると個人営業の商店で、コロッケパンの夕食代用なんてことも頻繁にあった。
朝はギリギリまで寝て、10分間の電車通勤を経て会社へ出勤。乗車する電車は、柏から先東京方面へ向かう人たちが、乗り換えを急ぎドア周辺に集中。車両の真ん中にいたのは、柏駅で下車する高校生と俊彦くらいしかいなかった。
女子高生のたわいもない話は、俊彦の年齢も近くスンナリ耳に入ってきた。話題は彼氏のこと、学校のこと、おしゃれに関することなどだった。面白かったのは、校則違反をいかにかいくぐるかということ。スカートの丈の長さのこととか、ヘアスタイルに関する話が多かった。
雨の日ある朝、話題の中心は、前日にパーマをかけた奈央子。前髪がくるくるになり、当時流行った聖子ちゃんカットであった。周りの友達が、夏休み前の最後の頭髪検査が心配なようで、『天パ』でパスするつもりかと質問した。本人は涼しい顔で、引っかかったら落とせばいいじゃんと話す。同級生達が執拗にカールした髪を触っていると、昨日行った美容室のことを2日前にパーマをかけた、まり子から聞いた話を思い出しながら同級生に昨日の美容室での出来事を話した。
ヘアスタイルの相談を指名した、美容師さんと打ち合わせをすませると、自信なさげな少年風情の男性が寄ってきた。 『シャンプー台』へお願いしますと奈央子に声を掛けエスコート、いやな予感がした。奈央子は先ににパーマをかけたまり子の話を思い出した。まり子は『シャンプー』がイヤだった、おかまみたいな男子が担当で、おねえ言葉で話しかけ、椅子を倒し『お湯、熱くないですか』、『苦しくないですか』と何度も話かけられ、あそこの店には2度と行きたくないと言っていた。
郊外ターミナル駅周辺の
おしゃれな美容室は限られ
二人はとも同じ美容師が担当。
お姉言葉のアシスタントさんも。
俊彦は話を聞いていると
なんだか、アシスタント男子が
とても気の毒に感じた。
奈央子はまり子よりも過激
髪を洗ってくれたナヨ男の
体が顔に近づくとワキの臭いが
きつくお姉ならケアしとけよと
心の声が発せられた。
この時代汗止めを使用するのは
ほぼ女性オンリー。
パーマのロットを外してお湯で流す。
本当なら気持ちがいいタイミングなのに、
パーマ液と汗の臭いが混ざり、
期待していた癒しの時間が
残念なものになった。
奈央子は湯加減や
かゆいところを
聞かれてもスルー。
まり子は不快であっても
『気持ちよかったです!』
という発言ができる社交性が
あるけど奈央子はかわいい外見と
異なりずっと仏頂面のまま。
シャンプーが終わり体を起こされと
タオルドライの前に
すぐさま自ら席を移動してしまった。
奈央子は確かにまり子より
ツンデレだけど怒るのは訳が。
ネットやSNSの無い時代。
書店で買ったヘアカタログが情報源。
ヘアカタログにアイドルのヘアレポが
載っていて、シャンプー至福の時
という記事が出ていて、
アイドルがシャンプーされている
写真が掲載され
とても満足そうにしてるのを見ると
自分も同じ体験ができると思うのも
無理もないか、、、。
全ての職業共通だけど
好感が持たれないと
仕事はうまくいかない。
サービス業は特に難しい・・・
自分も周囲からどのように
見られているのか、
俊彦は不安を感じた。
そういえば昔美容師だった
同級生は、30歳頃転職。
サラリーマンなら若手の部類も
本人は、美容師としては
もう旬じゃないと
話していた。
俊彦令和5年の回想。
当時の女高生たちも
既にアラフィフ。
今日どこの美容室へ
行っているのかな。
青春時代と同じようにナヨ男に体を倒され仰向けになって、なすがままの体勢になって、洗髪してもらっているのは、今でもいやなのか、あるいは息子のような世代の男子に頭をごしごししてもらうのが、至福なのか、俊彦は聞いてみたかった。
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